ひきょうなんです
おばちゃんもだいぶんとあるくちからがおちました。
はじめておばちゃんと外をあるいたときは、なにももたずにあるいたりもしたんだけど・・・
それから5年、いまは家の前をでるのでせいいっぱいになってしまいました。
それでもさくらはあきらめずにシルバーカーを取り出して、おばちゃんをさそいだします。ひざがいたいのをしっていて。あしがつらいのしっていて。こころを鬼にして。
最近は、あまりとおくまであるけないけど、シルバーカーで家のまわりをあるけるだけあるこうとがんばっています。
そんなおばちゃんですが、以前は、シルバーカーで近くの商店街までよくあるいたものです。
散歩の途中、ちかくにこどもが通ると、おばちゃん、ぜったい声をかけるんです。
こどもたちも、はずかしがって、しらんぷりしてむこうにいっちゃうと、「そうなの、そうなの」って、楽しそうにつぶやきます。
手をこね回してもじもじするこがいたら、「わたしもゆびがまがるの」ってじぶんのゆびをひっぱってみせるの。
おばちゃんのくちぐせ。「こどもたちと走りまわれなくなったらおわりなの」。
だから、定年前に学校をやめた。おばちゃんの美学。
そんなおばちゃんと散歩してると、ときどき、「先生」ってこえをかけてきてくれるひとがいるんです。みんなすごくしたっているかんじで、そのとき、さくら、とてもほこらしいの。
「せんせい、おひさしぶりです、おげんきですか」って。
そしたらおばちゃん、さくらのほうをみて、「このこはね・・・」
といきなり、さくらのことをはなししだすのね。
あいてはきょとんと。そりゃそうだよね。
さくらも、にがわらい。
さくらはひやひやしてるの。あいてがふしぎなかおをするんだもの。
なんかおかしいってきづくまえに。さようなら。
でもね、内心ほっとした。
さくらね、おばちゃんがそんけいされているの、すごくほこらしいんだ。だからね、そんなおばちゃんのイメージをまもりたいの。
それって、おばちゃんをまもっているつもりでも、さくらがきずつくのがこわいのかな。べつに認知症になっても恥ずかしいことないってよくわかっているつもりなのに。ただの病気だからって。
・・・
ほんとはね、しられたくない。おばちゃんが認知症になったなんて。やっぱりくやしいの。そんなこといわれるのが。
さくらの偏見っていわれるかもしれないけど。でも、できるならしられたくない。
おばちゃん、なにもかわってないのに、だめになったようにいわれるんじゃないかって。それがこわい。
おばちゃんのこと、守りたいのに、守られたい。
ひきょうなんです、さくらって。
ごめんね、おばちゃん、よわねをはいて。